第37章 FFHI III〈綾織 星羅〉
「星羅様、いらっしゃいますか」
『はい』
「ご主人様がお呼びです」
『分かりました。今行きます』
ベッドから立ち上がってお父さんの部屋に向かった。何だか、ちょっと緊張する。扉の前に立って、三回ノックした。
「はい」
『失礼します』
「星羅か。話があるのは、君と有人の婚約についてだ」
婚約…?今更、何か変更があるのだろうか。
「実は、万里小路財閥という友好関係にある財閥の娘さんと有人は婚約する予定だったんだ。だが、君が来てからその婚約はしない事にした。ここまでは良いかな?」
『はい』
「それが最近、万里小路財閥が、金を出すから有人と結婚させてくれと言ってきてね。勿論断ったが…次断れば鬼道財閥と友好関係を切り、陥れるとまで言ってきた」
『つまり…この家を出て行って欲しいって事ですよね』
「…そうなる。新しい生活場所や支援は万里小路家がやってくれるらしいから安心して良いそうだ。だが、今は時期が時期なだけに直ぐに君を追い出すわけにはいかない。だからFFHIが終わるまではここにいて良い」
『分かり…ました。私は良いですけど…それでは有人君の気持ちはどうなるんですか…?こんなの、有人君がかわいそうです…』
「仕方ないんだ。そのせいで社員全員解雇させる訳にはいかない。分かって欲しい…」
確かにそうだ。人一人の意思でどうにか出来る事じゃ無い。でも…こんなのって…。
「話は以上だ」
『はい。失礼…しました』
どうしよう…。このお家に居れるのは…あと少し。もう、有人君とはおさらばしなくちゃいけない。なら、今日は。今日位は。全て忘れてしまいたい。
『お父さん、お母さん。好きな人と別れなくちゃいけないんだ。どうしたら良いんだろう』
「星羅。いるか」
『うん、いるよ』
「父さんとの話は?」
『うん、終わった。FFHIの期間、有人君を宜しく、だって』
咄嗟に嘘を吐いて誤魔化した。これは、有人君に言っちゃダメだ。これを言ったら絶対に有人君のプレーじゃなくなる。これは仕方ない。決定事項なんだから。私一人が反発した所でどうにもならない。
「父さん…」
『お父さん、有人君の事凄く心配してたよ』
「俺は大丈夫なんだがな」
『それを示すためにも、精一杯頑張ろうね』
「ああ、そうだな」
良かった。気付いてないみたい。早く抱いて欲しい。この気持ちを忘れたい。
『有人君、私を抱いて?』