第36章 FFHI II〈朝日奈 乃愛〉
アフロディの事だから、サラッと流す様に言ったのかと思えば全然違かった。目が、本気だった。私には本気で言ってる人を「冗談でしょ」と返せる様な人じゃ無い。というかそんな事したくない。
『アフロディ。ちょっと長くなるけど、良い?』
「ああ、構わないよ」
『アフロディの気持ち、ありがとう。こんな私を好きになってくれて。でも、私にはもう凄く大切な人が居るんだ』
「豪炎寺君…だろう?」
『うん。だから、君の気持ちに応える事ができないんだ。ごめんね』
「構わないさ。元々玉砕覚悟だったしね。気付いていたんだ。君達が相思相愛だという事にも」
『そっか…ごめんね。長い事話しちゃって。でも…アフロディにはいつもお世話になってるし、またいつもの様に話してくれると嬉しいな』
「君がそう望むなら、僕は勿論そうするさ。でも、最後に僕のお願いを聞いてもらっても良いかい?」
『うん』
何だか、変な空気だった。今までアフロディとこんな真面目な話はした事無かったから。
「少しだけ、抱きしめさせてほしい。それだけで…良いんだ」
『分かった。ちょっとだけだよ。修也が来たら、誤解されちゃうから』
「ああ…」
アフロディに抱き締められた。凄く良い匂いがするし、とても温かい。唯、彼の指先だけが冷たかった。
『アフロディは、心から許せる人がいる?』
「え…?」
『アフロディ、指先冷たいよ。手が冷たい人って、人付き合い苦手なんだって』
「そうかも…しれないね」
『私じゃ無い、誰かアフロディが本当に心を通わせる事ができる人が見つかる事を願ってる。それしか…私には出来ないから』
「でも、僕だって諦めるつもりは無いよ。豪炎寺君、聞いているんだろう?」
え、修也いたの…?全然気付かなかった。
「…ああ」
姿を見せずに声だけが返ってきた。どうして…?
「君が少しでも隙を見せたら、僕は迷わず横から掠め取るよ。それだけは肝に銘じておいてくれよ」
「ああ」
「それじゃあね。乃愛」
『う、うん…』
何だか気まずいな…。修也は、どういう風に思ってるんだろう。
『修也…?』
「お前が…アフロディの元に行ってしまうんじゃないかと…焦った」
『…』
馬鹿だなぁ。そんな事する訳ないのに。でも、それ以上に私の気持ちが届いていないのが悔しい。
『ねぇ、修也。顔見せてよ』
言った数秒後に柱の陰から姿を現した。