第32章 Fight! 〈基山 ヒロト〉
ーー翌日
何故だか心配で、放課後に東雲邸に向かった。異世界では皆今頃ヨクボウを盗んでいるのだろうか。未だに昨日の事が不思議でならない。異世界に行っていたんだ。俺は。
「あれ…帰って…来た?」
『皆…』
「ヒロト、どうかしたのか」
『成功…したの?』
「ああ」
皆、どことなく疲れている様である。何かあったのだろうか。
「これが一応盗み出した物だが…」
『それは、君達が好きにして良いよ。彼女もそれを見て良い気はしないだろうから。売るなり、資金にするなり君達に任せるよ』
「ありがとう」
『いや、お礼を言うのは此方の方だ。本当にありがとう。きっと俺の力じゃどうにもならなかっただろうから』
「いや、これが俺達の役目だから」
『ありがとう。これからも君達を応援するよ。何か困った事があったら言って欲しい。出来る限り力になるよ』
「良いって事よ!困った時はお互い様ってな!」
『本当に助かった。ありがとう』
「ああ」
去っていく怪盗団に一礼して、顔を上げた。すると、正面玄関から何やら話し声が聞こえる。隠れた方が良さそうだ。
「一体何なんだ。婚約者なんて言っておきながらたった数日で婚約無効にするだなんて」
「取り敢えず、此奴を外に出せとしか言われてないからな」
覗いてみると、門の前に瑠璃が一人ポツンと置き去りにされていた。くそ…何処までも瑠璃を雑に扱うのか…。
『瑠璃…!』
「…!」
『大丈夫?瑠璃』
「…ぁ…」
どうかしたのか…?声が出ていない。
『声が…』
「…」
やっぱり、声が出ていない。それに身体中痣だらけだ。今すぐ病院に…。
『瑠璃…ごめん』
笑顔が歪んでいた。無理に笑っている。もう、こんな事にならない様に、俺が瑠璃を守る。
「ヒロト!」
『豪炎寺君、鬼道君…』
「今すぐ車を呼ぼう」
『ありがとう。でもどうして分かったんだい?』
「乃愛と綾織が気付いてくれた」
「まさか、お前が巷で噂の怪盗団と繋がっていたとはな」
『まぁ、いろいろあってね』
「車が来たな。行ってやれ。ヒロト」
『ああ、勿論』
鬼道君が用意してくれた車に乗って、急いで病院に向かった。診察して貰うと、痣の方は時間が経てば消えるらしい。だが、一番の問題は声が出ない事だった。
「心因性発声障害ですね」
『治るんですか?』
「本人がストレス源を克服すれば治るでしょう」
『分かりました…』