第32章 Fight! 〈基山 ヒロト〉
『瑠璃…』
「(私は大丈夫。助けてくれたの、ヒロト君なんでしょ?)」
筆談で会話する。先程よりは大分表情も柔らかくなっている。
『弟や妹達も無事保護されたみたいだよ』
「…!」
瑠璃が泣いている。余程心配だったみたいだ。驚いた顔で、大粒の涙が頬を伝っていった。
『瑠璃…お疲れ様』
「ぅ…ぅっ…」
『頑張ったね。瑠璃』
優しく包み込む様に抱きしめる。長い間気を張っていた様で、安心したのかぎゅうぎゅうと強く抱きしめてくる。
『瑠璃、偶には自分を大切にしなくては駄目だ。じゃないと俺が心配になる』
「…」
ゆっくりと瑠璃が頷く。今はただ、瑠璃を安心させてあげたかった。
『落ち着いた?』
瑠璃はもう一度頷いて、涙を拭っていた。
『実は、巷で人気の怪盗団と手を組んだんだ。急に屋敷から追い出されたのはその為だよ』
「(本当なの?)」
『ああ、だから東雲 明彦自身が改心した筈なんだ』
「(そっか…)」
『取り敢えず今日はゆっくり休んだ方が良い。俺はそろそろ帰るよ』
立ち上がろうとした瞬間に制服の裾を引っ張られた。
「(もう少し、一緒にいて?)」
そんな彼女の可愛い誘いを断れる筈もなく。彼女が寝付くまで、一緒に居る事にした。藤色の髪が動く度にサラサラと揺れている。その輝く髪を手で救って、そっと口付けた。
『俺は、瑠璃の側に居るよ。いつでも』
微笑んで、髪を撫でていた手に頬擦りをしてきた。こうして見ると少し猫っぽい。柔らかく白い肌が手に吸い付いている。
『本当に…生きてて良かった…』
「(大好き。ヒロト君)」
そう書いた紙を見せると、手の甲にキスしてくる。声は発して居ないが、自然と脳内に話しかけているかの様な感覚がする。声が聞こえる。
『伝わったよ。瑠璃。俺も愛してる』
「だ…い…すき…」
無線音で送られた言葉はずしりと重みがある様な気がした。音程が無くたって、気持ちは伝わってくる。
『瑠璃がもう一度声を出せる様に、俺も協力するから』
「(ありがとう。FFHIの選考試合迄には絶対治してみせるよ)」
『ああ。瑠璃も絶対理由があって選ばれたんだ。きっと治るよ』
頷く瑠璃は、何だかとても覚悟を身に背負っている様で、やる気は満々の様だ。俺も負けていられない。FFHIでは皆の役に立って、世界と闘うんだ。
『おやすみ、瑠璃』
彼女は静かに目を閉じた。