第30章 Lead! 〈綾織 星羅〉
『有人君しか…いないんだよ…』
「そうか…」
まだ、十数年しか生きていないけれど、それでも君の存在は私の中でかなり大きくて。
「そろそろ夜も遅い。風呂に入って早く休んだ方が良い」
『…うん』
温もりが離れるのがどうしても寂しい。でもわがままは言っていられないから、有人君が部屋から出て行くのを止めなかった。
『FFHI…頑張らなきゃ』
カーディガンの裾を握りしめた。私、出来る事から始めていきたい。有人君が応援してくれるなら、私ももっと頑張れる。だから、やるの。君の為に。
ーー翌日
学校に来た途端、なんだか見られているなと感じた。有人君も気付いている様で、少し警戒している。すると、近くの茂みからがさごそと音がする。
『誰…!』
「星羅さん…!」
『あなたは…昨日の…』
「俺…貴方の事が好きになりました!俺と、付き合って下さい!」
一体何を言っているんだ。昨日あれだけ脅しといて、そんなにコロコロと変わるなんて。
『ごめんなさい。私、もう既に有人君と付き合ってるので…』
「お前だな!星羅さんに変なことを吹き込んだのは!」
だから何なの…。変な事吹き込まれてないし、寧ろ変なのはそっちの方だし。
「気安く名前で呼ぶな。お互いの合意の上でこうして隣にいる。お前にとやかく言われる必要はない」
「お前がマインドコントロールでもして…」
『貴方の方こそ、マインドコントロールでもされたかの様な豹変ぶりですけど』
「うっ…」
マインドコントロールなんて、言われると思ってなかった。この気持ちは嘘じゃないのに。
『もう…マインドコントロールなんて、言わないで下さい…』
「…!」
『人の気持ちを簡単に否定しないで下さい。凄く…傷付きますから』
「ま、待って下s…」
『これ以上、貴方と話す事なんてありません』
「星羅…!」
朝からこんな気持ちになるなんて。まるで、自分の存在まで嘘になったみたいだった。
「星羅、大丈夫か」
『ごめんね。今は何も話したくない…』
朝の出来事から自分の存在について考えてしまう。何で自分は此処にいるのだろうとか。自分が自分だと言える証拠はあるのかとか。良く分からなくなってきた。
「…さん…綾織さん!」
『は、はい!』
「問36の板書、お願い」
『…はい』
証明問題…。私も、こんな風に示されたら自信を持てるのかな。