第30章 Lead! 〈綾織 星羅〉
『これから…』
「過去は無知なのだから出来なくても仕方ないと俺は思う。だが、知を宿している今なら、これまで出来なかった事もできるんじゃ無いのか?」
もし、このFFHIで日本代表のマネージャーとして何か学べる事があるのなら…。その可能性にかけてみるのも一理ある。やらなくて損するより、やって損した方が良い。
『分かった…。この機会に学べる事があるのなら…やってみたい…!』
「その意気だ」
『あのね、私、いつの間にか今の自分で良いって思ってた。現状に甘えてた。分からなかったの。誰も示してくれる人が居なかったから、進めばいいのか、引けばいいのかも、何も知らなかった。ううん、知ろうとしなかった。進むのが、怖かった』
暖かい感覚がした。少し頭を上げると有人君が私を抱きしめているのがわかった。
「俺は、父さんと母さんは居ない。けれど、影山という道を示してくれた存在がいた。確かに間違った事も教えられた。だが、全てが間違っていたとは思えないんだ」
確かに、影山は今でも悪役とされている。けれど、私もあの人が全て間違っていた様には思えない。
『有人君は、強いよ。だって、間違った事から正しい事へと戻る事が出来たんだもん』
「お前だって確かに強い。春川財閥の時だって、お前自らの身を投げ打って乗り込んだだろう」
それは有人君が来てくれると信じていたからだ。私は、君に依存してしまっている。君が居なければきっと私一人じゃ何も出来ない。
『私、有人君が居なければあの作戦は出来なかったと思ってる。貴方が居てくれなければ、今の私も居なかった。ありがとう』
「星羅…」
『そして、愛してます。旦那様』
そっと頬に口付ければ、有人君の顔がみるみる赤くなっていく。自分も照れている事を隠したくて、家まで走って帰る事にした。とは言えまだ治ったばかりであんまり走るなって言われてるんだけど。
『あ…』
靴底が地面に擦れてバランスを崩した。衝撃が来る…と思いきや、後ろから手を引かれる。
「だから、あまり無理をするなと言っただろう」
『有人君は過保護なの…!』
「過保護になるのは当たり前だ。俺の大事な妻だからな」
唇に甘い香りが乗った。柔らかな感触が脳を刺激する。此処は、外なのに。誰かに見られているのかもしれない。でも、やめられない。
『んぅ…ゆ…と君…?』
「…すまない。やめられなかった」