第29章 Fly!〈基山 ヒロト〉
『何れかは言わないといけないっては思っていたんだけど』
「今日言ってくれたならそれで良いの。あ、これからはバレエの迎えといつもの送り迎えも大丈夫」
足を心配しているのは分かるけど、何もそこまで心配しなくても…。
「星羅ちゃんもね、大丈夫大丈夫って言って結局悪化してた。大丈夫大丈夫って言ってる人に限って大丈夫じゃないんだから」
綾織さんの結果があって言ってるのだろう。確かに、此処は彼女の意見に従うべきなのかもしれない。全て終われば、また元通りになる。
『そうだね』
「信じてる。君がまた、『笑顔で』サッカー出来る事を」
振り向き様に微笑みを零す彼女と後ろの夕日がどうも一枚の絵画に見えて仕方なかった。
「じゃあ、此処でお別れだね」
本当のお別れの様に言うから少し驚いた。そんな事は無い筈なのに、どうも胸騒ぎがしてしまう。何なんだろう。
『ああ、また明日』
瑠璃に手を振って別れる。しかし、どうしてそんなに悲しそうな顔をするんだろうか。
「ヒロト!」
いきなり名前を呼ばれたから顔を上げてみれば、緑川が急いで走ってきた。
『どうしたんだ?緑川』
「どうしたも何も、聞いてないのか⁉︎」
『何か、あったのかい?』
「これ、今日の夕刊!」
そこで見たのは、衝撃の事実だった。有名企業御曹司と…瑠璃の、「婚姻発表」の記事だった。
『これは…!』
急いで瑠璃の家に向かった。何時もは子供達の賑やかな声が聞こえる筈が、何一つ聞こえない。インターホンを押すと、叔母さんが出てきた。
「あら…」
『すみません、俺、瑠璃さんと同じクラスの基山ヒロトです!瑠璃さんは…!』
「実は…あの子、琥珀や紫達を人質に取られちゃって…無理矢理婚約を結ばれたみたいなの…。私達だって婚姻に反対したけれど…やっぱり妹や弟が心配だからって…」
『そんな…!』
じゃあ、あんなに悲しげな顔をしたのは…。本当の「お別れ」だったからなのか?それなら、なぜ日本代表のマネージャーを受ける話をしたんだ…。
「瑠璃、言ってたわ。貴方なら絶対に来てくれるって」
『…!』
瑠璃は、信じていた。俺の事を。でも、俺の足の事を聞いて、自分の事はどうでも良いと言った。どうでも良いのはこの事だったのか?俺は、何より瑠璃の方が大事なのに…!
『分かりました。俺が絶対に瑠璃さんを助けに行きます…!』