第29章 Fly!〈基山 ヒロト〉
瑠璃は凄くディズニーを楽しみにしていた。初めて二人でデートしたのが遊園地だったから、思い出だったんだと思う。
「私の事は気にしなくて良いよ。だって、ヒロト君が大好きな事してるの見てるのが好きだから」
涙を拭って、無理に笑顔を作り出す姿に耐えられなかった。俺自身がもう少しちゃんとしていれば。
「ごめん、一番辛いのはヒロト君なのに一人だけ泣いちゃって。今日で泣くの辞めるから。明日からはもう泣か…ひゃっ…?」
作り笑いがどうしても俺には堪えた。どうにか安心させてあげたくて力一杯抱きしめる。
「く、苦しいよ…ヒロト君…?」
『ごめん』
それしか言えないまま、腕の力を緩める。これ以上、大好きな彼女の無理な笑顔を見ていられなかった。
「本当はね…知ってるんだよ。ヒロト君の足、症状出てきたのは四月頃だったでしょ?」
確かにそうだ。四月に異変があるのは気付いていたけれど、放って置いたらこんな事になっていた。
『そうだよ』
「気付いてた。時々何処となく暗い顔してたの。でも、多分言ってくれないだろうなって分かってたから。ヒロト君、一人で無理しちゃうんだもん。頼りないけど、一応彼女は居るんだけどなぁ」
心配掛けたくないという気持ちがあったから、自分の悩みは瑠璃には打ち明けてこなかった。でも、それは絶対に瑠璃が頼りないから言わなかった訳じゃない。
『瑠璃は頼り甲斐あるよ。俺は、何より瑠璃に心配掛けたくなかった』
「私としては、一杯頼られたいな。心配なんていつもしてるんだから、気にしなくて良いよ」
何処まで心が広いのか。俺には、瑠璃に何かを返す事が出来ているのだろうか。
「後は、細かい事は気にし過ぎない事。先ずは自分の事の方が大事なんだから。私の事なんて二の次三の次で十分。でも、偶には構ってくれると嬉しいなぁ」
『俺にとっては、サッカーよりも瑠璃の方が大事なんだけど』
「私の事はどうでも良いの。私は、ヒロト君が好きな事して笑ってる姿を見ていられればそれで良い」
瑠璃は本当に自分の事はどうでも良いと思ってる。実際、自分の好きなバレエよりも兄妹達の世話の方が大事だと思っていた。
『ありがとう』
礼の言葉を口にすると至極嬉しそうに微笑んだ。ずっと、この笑顔が見たかった。
「さて、帰ろう。ごめんね、いきなりこんな所連れてきちゃって」
『良いんだ』