第29章 Fly!〈基山 ヒロト〉
本当に意味が分からないという顔で問い返された。
「だって、ヒロト君の事好きじゃ無かったら私此処までしないもん」
きょとんという効果音が一番当てはまるであろう顔で衝撃の答えを返された。
「あのね、私あんまり口に出さないけど、此れでも世界一君の事愛してるんだよ?」
追い討ちをかける様に爆弾が投下される。こんな可愛い台詞にどう耐えろと。それでもカッコ悪い姿は見せたく無いので、マスクを切り替えて返事を返した。
『俺も愛してる。瑠璃』
「うんっ!」
瑞々しい唇にそっと自身の唇を重ね合わせた。夕暮れがちょうど良く自分達を照らしている。初めて自分がこんなに固執した女は後にも先にもきっと瑠璃だけだ。瑠璃色の瞳は相も変わらず何を考えてるかは良く分からないが、七か月経って随分分かる様にはなったと思う。
「そうだ、二月からFFHIが始まるでしょ?」
『ああ』
「その日本代表の公式マネージャーをやる事になったんだぁ」
『えっ…バレエはどうするの?』
「その期間はちょっとお休み。やると決めたからにはやるの。折角響木監督って人に何か理由があって選んでもらえたなら、私はその期待に応えるべきだと思う」
瑠璃色の瞳に一筋の光が筋を通った。きっとこうなったら途中でやめる事はしないだろう。
「私も精一杯頑張るから、ヒロト君も頑張って。だってもう選ばれてるでしょ?」
『ああ。でも言ってなかったのに、良く分かったね』
「私、知ってるもん。ヒロト君自分を超えようと毎日必死に練習してた。その努力が報われたんだよ」
流石自分の彼女なだけあって、よく見てくれている。確かに、一番の壁は自分だった。毎日一歩でも良いから前に進みたいという貪欲な精神がそうさせたのかも知れない。
「ヒロト君、今日部活休みだよね?ちょっと私に付き合ってくれない?」
『うん、良いよ』
「じゃあ、こっち」
手を引かれて学校を出る。連れてこられたのは、円堂君達と練習している河川敷だった。今は子供のサッカーチームがコーチの元で練習している。
「ヒロト君、隠してる事あるでしょ」
いきなり何を聞かれたかと思えば、自分が一番気にしている事だった。
『…どうして?』
「だっていつもと違うんだもん」
やはり優秀な観察眼を持つ彼女に隠し事は出来ないようだ。最近確かにずっとこれだけで悩んでいた。残酷な事を伝えなくてはならない。