第29章 Fly!〈基山 ヒロト〉
テストも終わって、結果も返ってきた。取り敢えず上から六番は何時もの六人組で固められていた。意外な事に、朝日奈さんが一位を勝ち取り、二位が綾織さんだった。
「う〜ん…」
『どうしたの、瑠璃』
珍しく悩んでいる彼女に声を掛けた。少し前に変えた藤色の三つ編みが不安げに揺れている。
「ううん、順位落ちちゃったなぁって。気抜いてたら六番になっちゃった」
『まぁ、俺達そんなに変わらないから』
「ヒロト君と一点差かぁ…。次からちゃんと勉強しないと…」
六番とか、下の方の人達からすれば神の様な順位なのでは…?とも思うが、人それぞれの価値観なので否定はしない。
「乃愛ちゃんは、医者を目指すんだって。だから凄く今回頑張ったんだと思う」
『負けじと豪炎寺君も四位にいるからね』
今回は先程も言った通り一位は朝日奈さん。二位は綾織さん。三位は鬼道君で、四位は豪炎寺君。五位は俺で、六位は瑠璃。前回に比べて大分変動している。
「頑張ろうとは思うんだけど、将来なりたいものが私まだ決まってないんだ。明確な目標が無いから頑張れないのかも」
『確かに』
俺は今はサッカーをしているけど、いずれ吉良財閥を継ぐ事になるだろうから、大好きなサッカーとはいつかは離れると思う。
「ヒロト君はなりたいもの無いの?」
『俺は吉良財閥を継ぐ事になってるんだ』
「そっか…。今はお姉さんがどうにかしてるんだっけ?」
『ああ、姉さんのおかげで職を失いかけていた人達も失わずに済んでるんだ』
何かを考えているのか、顎に手を当てながら悩んでいる。確かに勉強にはモチベーションを上げるのも大切だ。何か大きな目標がなければ何の為にやっているのかが分からなくなってしまう。
「分かった!」
いきなり大声を出すものだから驚いたけど、彼女なりの解決方法が見つかったのだろうか。見つかったとしても恐らくいつも通りぶっ飛んだ思考のはずだ。
「私、ヒロト君を支える人になるよ!」
『…ん?』
「私、凄くパソコン系弱いけど、頭脳位なら使えるとは思うんだよね」
今ストレートにプロポーズ紛いの事をしてきた気がするのは俺だけなのだろうか。それでも笑顔で提案していると言う事はやる気満々の証拠だ。
『つまり…?』
「ヒロト君の秘書的な存在になればヒロト君を支えられるでしょ?」
『それは、そうだけど…。俺で良いの?』
「何言ってるの?」