第26章 Lay! 〈朝日奈 乃愛〉
と、話している最中に、何かが当たっている感覚が…。
『あのさ』
「ああ」
『当たってる…んだけど…』
「勃った」
『バカ!』
いきなり恥ずかしくなって、顔を隠した。そして勢いよく椅子から飛び降りる。
「んぅ…お姉…ちゃん…?」
大きな音を立ててしまったからか、夕香ちゃんが起きてしまった。
『ゆ、夕香ちゃん、おはよう』
眠そうに目を擦りながらおはようと返してくれるのが可愛らしい。時計を見ると、おやつに丁度いい時間になっていた。
『おやつの時間になるし、プリン食べよっか』
「プリン…!」
とろんとしていた目がいきなりシャキッと開かれて、嬉しそうに飛び跳ねていた。金曜日に休日用のおやつを作っておくのが私の密かな楽しみである。
『来週は何が良いかな…。折角ハロウィンも近いし、それっぽいの作りたいなぁ』
「ハロウィン!」
『そうだよ。トリックオアトリートって言って言うとお菓子貰えるんだ』
「夕香もやりたい!」
『じゃあハロウィンの日にお兄ちゃんとお姉ちゃんにトリックオアトリートって言ってごらん。何か美味しいものくれるかもしれないよ?』
「わぁ…!夕香楽しみ!」
ハロウィンのお菓子か…。たまにはタルトも作ってみようかな。おやつも食べ終わって、皆で週末課題タイム。教え合って何とかクリアを目指した。
『終わったー!』
「やったー!」
「そろそろ夕食にも良い時間だな」
『私準備するね』
席を立って、準備し始めたその時だった。玄関の鍵が開く音がする。修也のお父さんが帰ってきた。修也は勝也さんが帰ってくると、何処か気まずそうな顔する。
「俺の分も用意してくれ」
『はい。また病院へ戻られますか?』
「いや、此処で食べる」
『分かりました。準備しますね』
ビーフシチューの具材を取り出してトントンと包丁で切っていく。いきなり家の中の空気が冷たくなったように感じた。テレビの音があるはずなのに、無音なんじゃないかと勘違いしてしまう。
「修也、次のテストはいつだ」
「十一月の二十八日です」
「上位十番以外は認めないぞ」
「はい」
勝也さんだって本当はもっと和気藹々とした話をしたい筈だけど、まだ修也に罪悪感を感じてる。そのせいでまだ、厳しい父の仮面を外せないでいるんだ。このままじゃきっと、この家族も永遠に時間が止まったまま。何とかしてあげたい…けど、介入して良いのか…。