第20章 Hold! 〈朝日奈 乃愛〉
暫くぼーっとしてるとインターホンが鳴った。ドアを開けると、豪炎寺が立っていた。うげ、ちゃんと確認して開ければ良かった。
「何してるんだ?」
『だ、だからやる事あるからさ。先に行っててよ』
「本当なのか?」
『うん。大丈夫、後でちゃんと行くから』
本当は行くつもり無いけど、こうでも言わないと此処から離れてくれないから。
「分かった」
『うん、じゃあまた後で』
本当は、居ないよ。今日の夜は空港近くのホテルに泊まる予定だ。もう、此処には何も残さない。思い出さえも、連れて行く。
「待ってる」
ごめん…。戻れないよ。私は、戻れないんだ。何も無い部屋でぼーっと過ごす。もう、出ようか。お昼も食べなきゃいけないし。最後に回す鍵を少し名残惜しく感じながら、心の中でありがとうって言った。
『さよなら』
小さく呟いて街中へと出かける。九月はもう下旬に入った。フットボールフロンティアハイスクールの全国大会の結果を最後まで見れないのはちょっと残念、だけど、仕方なかった。携帯を見るとラインが来ていた。全部豪炎寺からで、いつ来るんだ?とか、何処に居るんだ?って保護者みたい。
『ごめん、ごめんね…』
嘘を吐いてしまった事に後悔しかなかった。ラインに既読はつけない事にした。
ーー翌日
空港に来た。ホテルを出てからも何もやる事なくて、空港で両親に何か買っていこうかなと売店を見ていた。何個か食べられそうな物を買っていこう。
「13:45分発、アメリカ、ロサンゼルス行きの飛行機の搭乗を間も無く開始致します」
そろそろ時間か…。海外なんて初めてだよ。英語、ちゃんと話せるのかな。先ずは検査へ向かおうとしたその時だった。
「朝日奈!」
後ろから大好きな声が聞こえる。なんで、此処に居るの。駄目だよ、戻って。今、君の顔を見たらきっと此処を離れたくなくなる。
「どうして、黙っていたんだ」
『言ったら、行きたくなくなってたと思うから』
「やっぱり、歌う事が好きだったんだろ」
ん?私は別に歌いたいからアメリカに渡る訳じゃ無いんだけど…。
『何か、勘違いしてない…?』
「?」
『私、別に歌いたいからアメリカに渡るわけじゃないよ。お父さんとお母さんに呼ばれたから…それだけ』
「ハァ…」
いきなり豪炎寺はしゃがみこんだ。随分と急いで来てくれたんだ。汗だくになってる。しかも制服のまんま。