第20章 Hold! 〈朝日奈 乃愛〉
渡されたのは名刺だった。企業名には大手の芸能事務所の名前が書かれていた。
『…』
「実は私はここの校長と昔からの付き合いでね。是非見に来て欲しいと言われたんだ」
『そうですか…』
「私は君の歌に魅了されたよ。良ければ私の事務所に入らないか?」
『…』
「考えてみてくれ」
流石に真正面から断るのは失礼かなって思ったから、何も言わずにおいた。私はこの事務所に入るつもりは毛頭ない。
「朝日奈」
豪炎寺に呼ばれた瞬間、貰った名刺をポケットの中に放り込んだ。
「何かあったのか?」
『ううん。何も。見に来てくれてありがとね』
「とても綺麗だった」
『あはは、ありがと。頑張って練習してきたからね。この日の為に頑張ってきたんだ』
「努力、したんだな」
『うん!』
「…この後時間あるか?」
『あるよ。一緒に回る?』
「お前が良ければ」
『やった!』
良かった…豪炎寺と一緒に回る約束を自然に取り付けられた。後夜祭も、一緒に居てくれるのかな。
「行くか」
『うん。何処行こうかな…』
「お化け屋敷にでも行くか?」
『無理無理!怖いの苦手なんだって!』
「よし、行くか」
『ちょっと!話聞いてる⁉︎』
まさに、聞いていませんとばかりに腕を引いて、お化け屋敷の列に並んだ。でも、待てよ?たかが学生クオリティなのでは?そうだよ。遊園地とかにあるみたいな本格的なのがあるわけ…。
「次の方、どうぞー」
「行くか」
『…よし…』
「ん」
『え?』
「腕、組んで良い」
『あ、ありがと…』
そっと腕に手を回した。鼓動…聞こえませんように。恐る恐る一歩ずつ踏み出して行くと突き当たりまで来た。ひええ…絶対曲がった瞬間にいるやつ…!豪炎寺より若干後ろに隠れながら角を曲がった。
『あれ…』
何もいない…?何も無くて安心すると誰かに肩を叩かれた。
「おおおおおおお!」
『ひっ…!』
人って本当に驚いた時、声があんまり出ない。一層強く豪炎寺の腕を握った。マジ怖い、無理!
「大丈夫だ。行くぞ」
『う、うん…』
マジで怖い。学生クオリティなんて言った私が馬鹿だった!その後も驚かされまくって、心臓止まりそうになったけど、何とか脱出…。いや、マジで死にそう…。
『はぁ〜!死ぬかと思った…!』
「くっ…ぷっ…ははは…!」
『ちょ、何も笑わなくたって良いじゃん!』
「いや…くふっ…」