第19章 Hurt! 〈綾織 星羅〉
相手が何を話しているのかも上手く聞き取れなくなってきた。脳内では天使と悪魔が喧嘩しあっている。寝ちゃえよ、楽になるよって囁いてくる悪魔の言葉にブンブンと頭を振って、相手を睨みつけた。
「何?その顔?刃向かうつもりなの?足も手も繋がれているのに」
『貴女には…負けない…!』
「このっ…!」
もう、何発目かも分からない鞭打ちの痛みに耐えながら、ある人を待つ。必ず来てくれると信じてる。あの人なら絶対…。
「残念ね!此処には誰も来れないわ!外からは絶対に分からないように壁に溶け込んでるもの。万が一この階に来たとしても気付く訳…」
バァンという音と共に、誰かが入ってくる。
「星羅!」
大好きな声だ。私の、大好きな…。来て、くれた。その安心感だけで、瞼は重くなっていく。
「星羅…!」
繋がれた鎖を外してくれているのかもしれない。段々と身体が脱力していく。もう、君が来てくれただけで私は、どうでも良くなる。でも、動けない。
『ゆ…と…くん…。あ…が…と…』
上手く、言葉が紡げない。ごめんね、ちゃんと感謝を伝えたいのに。
「無理に喋るな!」
鬼道君が羽織っていたジャケットが被せられたのか、少し暖かい。そこで意識は無くなった。
ーー数日後
『うぅ…』
目を覚ますと真っ白な部屋だった。病院…かな。
「星羅!」
『ゆうと…君…?』
「大丈夫か⁉︎」
『うん、だいじょ…っ!』
「動かない方が良い。全身打撲で身体中が痛い筈だ」
『そっか…全身打撲…』
「心配した。お前がもう目を覚まさないのかと…!」
泣いてる。有人君が、泣いてる…。そっか、心配かけちゃったな。ごめんね、私にはこれくらいしか方法が見つからなかったの。
『大丈夫、だよ。私、有人君が助けに来てくれて、本当に嬉しかった』
「そんなの…!」
当たり前、って言おうとしてくれたのかな。私なんかの為に、泣いてくれて、ありがとう。
『ごめんね、有人君がこの作戦に納得いってないのは分かってた。でも、私にはこれくらいしか思い付かなくて』
すると、病室のドアが開く音がして、お医者さんが入ってきた。
「君はちょっと出ててくれるかな」
「…はい」
有人君がトボトボと病室から出て行った。
「さっきの子から聞いたかもしれないけど、君は全身打撲だ。大体、入院期間はあと二週間くらい。退院してからも通院はしてもらう」