第16章 Freeze! 〈天晶 瑠璃〉
そうだ、昔先生に教えてもらったみたいに、分からないなら導いてあげれば良いんだ。
『ちょっとごめんね』
そう一言添えて、ヒロト君の手を上から握った。ヒロト君、結構驚いてたけど、気にせず布に筆を付けた。
「えっ…!」
『別に、布は逃げないし、万が一絵の具飛んじゃっても、後で白で直せば大丈夫だから』
「そ、それはそうだけど」
『サッカーと同じ。怖がってちゃ何も出来ないよ』
「…!」
芸術でもスポーツでも、共通する所はきっとたくさん有ると思う。だから、いろんな事を経験してどれだけ他の事に活かせるかが大事なんだと思う。
『もう大丈夫そうだね。私、また輪郭なぞるから、宜しくね』
「ああ」
二人でやると結構早く終わるもので、三分の一くらいは大体終わっていた。
「私達、もう帰るから、絵の具の片付けと戸締りお願いして良いかな」
『はーい。ばいばーい』
「さて、俺達もそろそろ片付けして帰ろうか」
『うん』
パレットに残っていた絵の具を水道で洗い流して、教室の窓際に立て掛けておくことにした。明日には乾いてると思う。
『結構進んだね。級旗も干しておこうか』
「ああ。案外、準備も楽しいものだね」
『うん。何気に準備の時間の方が楽しかったりするよ。あ、私トイレ行ってくる。ちょっと待ってて』
「分かった」
二階に降りて女子トイレに向かった。個室に入って用を足して出ようと思った時、二、三人の足音が聞こえた。誰か入ってきたのかな。
「今年の体育祭やばくなかった?」
「それな。サッカーの決勝は一年同士だったし」
「あと、何だっけ?借り人競争?あれも波乱だったよね」
「なんだっけ?一年で好きな人出てくるとか鬼畜じゃん。確かにあの男の子カッコ良かったけど、彼女の方頼り無さそう」
げっ…。完全に悪口じゃん。居ないと思って言ってるのかもしれないけど、当人ここに居るんですけど!その内出て行く音がしてそのまま去って行くのかと思いきや。
「あれ、借り人競争で告白した子じゃん。どうしたの?」
「彼女を待ってるんです」
ヒロト君、待っててトイレの前で待っててくれてたんだ。
「てかさ、大丈夫?お宅の彼女、頼りなくない?」
「少なくとも、人を予想で悪口言っている貴方達よりは、よっぽど頼りがいがあります」
「なっ…!顔カッコ良くても性格ブスじゃん!行こ!」
いや、性格ブスそっちだし…。