第6章 恋の歯車、回り始めました〈カラ松〉
『・・・っ、・・・くん。・・・カラ松くんってば!』
「・・・あぁ、悪い。」
漸く思い出から抜け出せたのは、花子に名前を何度も呼ばれてからだった。気がつけば日は沈み、オレンジ色だったはずの空は真っ暗になっていた。
「そろそろ帰るか!」
『あー、うん。そうだね・・』
なんて歯切れの悪い返事と、浮かばないような表情を見れば花子がまだ家に帰りたくないということは直ぐに分かった。
「ははーん、さては、まだオレとランデブーしていたいんじゃないのか?んー?」
『うん、先帰ってるね。』
「ちょちょちょ、冗談だからっ!」
これはまだオレと一緒にいたいんじゃないのか?
と、少しだけ自惚れてふざけたりもしたが(花子には見事にスルーされた)、実際のところはその原因もきちんと分かっている。
ブランコから降りて公園をあとにする背中を追いかけ、その細い腕を捕まえた。
「待って。・・・ちょっと、一杯やっていかないか?」
『え?』
「良いおでん屋を知っているんだ。」
と、最大級にかっこつけたくせに、花子を連れてきたのはチビ太のところで。
「こんなところだが、おでんは美味いんだ。」
「悪かったな、こんなところで。」
『うわー美味しそう。私も1回来てみたかったんだよね。』
「それなら良かった。好きなもの頼めよ。今日は全部オレのツケだ。」
「いや、払えよ。そんですげぇかっこ悪い。」
そうしてチビ太のおでん屋で絶品のおでんを食べながら、お酒を少し嗜んだ。ピアスを揺らしながら、少しずつ頬を赤らめていく姿にオレは簡単に興奮した。
髪をかきあげる仕草・・・エロい!
ウインナーを食べる姿・・・エロい!!
うっすら光る首すじの汗・・・エロい!!!
と、まぁ、こんな感じで、すっかりオレの頭は煩悩でいっぱいになり、どうにかして気を紛らわしながらタッティしないようにと必死に防いでいた。
正直、何を話したか覚えていないのは、酒のせいだけではない。花子も花子でお酒に酔ってしまったのか、頬を真赤に染め上げ、潤んだ瞳でオレを見つめている。
もしかして!今度こそ本当に!
オレを求めているんじゃないか?と本日2度目の自惚れをした。