第6章 恋の歯車、回り始めました〈カラ松〉
『だいぶ酔っちゃったね。』
「あぁ、オレはもうベロンベロンだ。」
夜道を歩きながら顔を真赤に染めてカラ松くんは笑うが、後半チビ太くんに出されて飲んでいた日本酒たちはどれもただの水だった。彼は余程お酒に弱いのか、はたまた少々味覚に問題があるのか、チビ太くんの優しさには全く気付いていない。
夏真っ只中ということもあり、夜でも外はとても暑い。酔い覚ましのために遠回りをして帰路に着こうと提案したのは、私の方だったが少しばかり後悔した。
『へぇ、こんなところにカフェなんてあるんだ。』
「本当だ。オレも知らなかったぞ。また今度一緒に来よう。」
『うん、そうだね。』
初めて通る道は、知らないオシャレなお店がいくつか並んでいた。先程まで暑さのせいで後悔していたこのルートも新しい発見があり、なんだかんだ遠回りして良かった、と頬が緩んだ。
他愛もない話をして歩き続けること20分。
大通りから少し外れたそこは、薄暗さといやらしいネオンの色が光るホテル街だった。
「なっ・・・っ、」
『・・・。』
カラ松くんはこういう場所に慣れていないのか、ここがホテル街だと気付いた途端、無口になってしまった。きっと一松くんが言っていた通り、彼もまた童貞なのだろう。
「なっ、なっ、なぁ花子?」
『ん?』
声をうわずらせたカラ松くんは、耳まで真赤に染めていて、酔いもあるだろうがきっと照れもあって。そんな姿に可愛いなあと微笑ましく思い、上がりそうになる口角をぐっと堪えた。
そんなことを考えているともつゆ知らず、同じ歩幅で歩いていたカラ松くんの足は止まる。振り返り、数歩後ろで俯いている彼にどうしたの?と声をかけるが返答はない。
カラ松くんに近付き覗き込むように顔色を伺う。酔いすぎて気分が悪いのかと、心配もしたが、いつもよりも数倍きりっとさせた目と視線が交わり、何やらそんな心配は要らないようだった。
何を言われるのかと首を傾げると、少し強めに両腕を掴まれた。
「や、・・・やっ、休んでいかないか?」
『うん、・・・ん?え?今なんて言った?』
何をそんなご冗談を、と軽くあしらうことも考えたが、目の前にいるカラ松くんがあの日のカラ松くんと重なりその手を振り払うことはできなかった。