第6章 恋の歯車、回り始めました〈カラ松〉
『カラ松くんは優しいね。』
「そんなこと・・・ないさ、」
ニコッと微笑む花子。
別に誰彼構わず優しいわけじゃない。花子だがら、花子が好きだから優しく大事にしているんだ。
・・・とはもちろん言えない。
『そんなことあるよ。筆箱忘れたとき私が一言も言ってないのに、気付いてくれて、真っ先にシャーペンと消しゴムを貸してくれたでしょ?』
「・・・。」
『それに今日だって、こうやって一松くんの変わりに来てくれた。』
“優しい以外のなにものでもないよ?”
そう言い、首を傾げて目を細くする花子への想いがまた一段と募る。その一方でそれを手に入れることができるのに、手を伸ばそうとしない一松に対してへの怒りと嫉妬もそれ以上に膨らんでいく。
一松は一体何を考えているんだ。
今日が、花子と会える最後の日なのに・・・
これで終わりにしていいのか?
そう一松に苛立っていたはずなのに、その言葉は自分自身にもブーメランとなって返ってくる。
一体オレは何を考えていたんだ
今日が、花子と会える最後の日なのに・・・
このまま何も言わないで終わりにするのか?
乾いた笑いが口から漏れる。
一松のことを棚にあげて自分だって同じことをしているじゃないか。
「なぁ花子、1つお願いがあるんだ。」
『なになに?負けたのは私だから、何でも言って。』
「目を閉じて欲しいんだ。」
花子は“えっそれだけでいいの?”なんて拍子抜けしたような顔をした。一体どんなことを言われると想像したのか、それはそれで少し気になった。
『・・・こう?』
ブランコに腰掛けたまま、ただ目を瞑ったその顔は綺麗だった。音を立てずに自分はブランコから降りて、そっと近付く。
「オレがいいよって言うまで目を開けるなよ?」
分かってると言わんばかりに首を縦に振る彼女に、また一歩、そしてもう一歩近付く。手を伸ばし、そっと白い頬に右手を添えると、驚いたのか花子の身体はビクンと揺れ、ゆっくり瞼が持ち上がり始めた。
それでも動きを止めることなく、自分の唇を花子のそこに優しく押し付けた。瞼が完全に持ち上がったのはそれからで、これがオレのファーストキスだった。