第6章 恋の歯車、回り始めました〈カラ松〉
『えー、悔しいっ!』
「さて何をお願いしようかな?」
『ね、ね!もう1回勝負しようよ?』
「それは構わないが・・・そんなに何個もオレの言うことをききたいのか?」
そう敢えて意地悪な言い方をして、ニヤリとオレが笑えば花子は口いっぱいに空気を溜め込みほっぺたを膨らませた。
「・・・可愛いな。」
つい漏れてしまった本音は風の音にかき消された。そのおかげで彼女の耳にまでは届かなかったようで、そのあとは他愛もない話をした。
クラスの中で誰がモテるとか、実は英語の先生はカツラだとか、どうでもいいようなそんな話がすごくすごく楽しかった。
『あとね、先週だったかな?キミんとこの長男にまたパンツ見られたよ。』
「まだおそ松はそんなことをやっているのか?」
『そうだよー、クラスの女子たちもみーんな怒ってるからね。』
「それはけしからんな。帰ったらよく言っておくよ。」
本当はちょっとだけおそ松が羨ましいと思ってしまったことは、心の奥底に隠して。言ってきかせるなんて思ってもいないことを口にしたのは、最後くらい花子に格好良いところを見せておきたかったから。
今更そんなことをしたって、花子がオレを好きになってくれるわけなどないが、別にそんなことはどうでもいい。ただの自己満だ。
そんなことを考えているとはつゆ知らず、花子は暗くなり出した空を見上げ、ポツリと小さな声で呟く。
『やっぱり一松くん来ないね・・・』
「・・・っ、」
切なそうな、儚そうな、それでいてキレイなその横顔に、なんて返せば良いのか分からず言葉が詰まる。少女マンガに出てくる2番手キャラのように、“オレにしとけよ”なんてクサい台詞を吐けたらどれだけ楽か。
『来るわけないか。教室でブスって言われちゃったしね。』
「それは違う。花子は可愛い、一松だって本当はそんなこと思っちゃいない。ただ・・・・・みんながいたから照れてただけだ。」
ったく一松のヤツ。
何しているんだ、早く来ないと花子が帰ってしまうじゃないか。何度も公園にある時計を確認しては、まだかまだかとソワソワして。
どんなに抵抗されてでも引きづってでも一松を連れて来れば良かったと思ったところで時すでに遅し。