第6章 恋の歯車、回り始めました〈カラ松〉
「ほら花子、こっちの白い子猫も可愛いぞ?」
『・・・あ、うん。そうだね。』
「あ!そうだそうだ、トッティから聞いたんだが、隣町に美味しいパンケーキのお店が新しくできたらしいんだ。どうだ?このあと行ってみないか?」
『・・・へぇ、うん。そうだね。』
なんて心ここに在らずを体現しているのは他でもない花子だ。
一松の何がそんなに気に食わないのか、なんてことはもちろん聞かなくたってすぐに分かった。
彼氏がいたという話は聞いていたが、きっと本当はまだ一松への気持ちがきちんと吹っ切れていないのだろう。もしかすると、花子自身もその感情に気付いていないのかもしれない。
まぁ何はともあれ、オレが今思うことはただひとつ。
一松よ、・・・・・場所変われ!!!!!!!
・・・じゃなかった、一松よ。
いつまでも気持ちよさそうに寝ていないで、早く起きてくれ。
しかしそんなオレの願いが叶うこともなく、一松がオレたちの存在に気付く前に痺れを切らしたのは花子の方だった。
『・・・カラ松くん、出よっか。』
「えっ、でもまだ一松と、」
『いいの。そもそも偵察に来ただけだし、楽しそうに働いてるのも分かったし、帰ろう。』
食い気味に言葉を遮りながらニコっと笑う顔は少し歪んでいて、今朝みたキラキラした眩しくて可愛いと思ったあの笑顔とはまるで違っていた。
「花子がそれでいいなら構わないが、」
おーい、一松。起きろよ!!!
なんて思いながらちらっとそちらに目を向けてみたが、あいも変わらず気持ちよさそうに喉を鳴らして寝ていて。
どうするのが正解なんだ?
そう自問自答しているうちに、オレの手を引っ張り店を出ようとする花子に流されながら店を後にした。
そして繋がれていたその手が離れたのは、最寄り駅に着いたころだった。そこで花子はまたしてもぎこちない笑顔をひとつ浮かべた。
『・・・パンケーキ食べに行かない?』
なんて好きな子に言われて断る男なんていない。
「なんだ、ちゃんと話を聞いていたんだな。」
そう笑いかけ、手持ち無沙汰になったその手をもう一度繋いだのはオレの方からだった。