第6章 恋の歯車、回り始めました〈カラ松〉
「『え、そっちーーーっ!?』」
思わずカラ松くんと声がハモってしまったのにはきちんと理由がある。
一松くんの働いている猫カフェに着き、お店に入るなり一松くんにバレないように、怪しまれないように(その時点でとても怪しいのだが、)そーっと受付を済ませて。
「は?オマエら何してんの?」
そろそろそんな言葉と共に一松くんが現れるじゃないかと、ソワソワドキドキしている私たちとは裏腹に、当の一松くんは一向に現れない。
『あれ?一松くんいないね。』
「あぁ。休憩でもしているのか?」
『そうなのかな?・・・あ、岸谷さん!こんにちは。』
フロントで忙しそうにしているオーナーの岸谷さんに軽く挨拶をする。一松くんの所在を聞こうとするも、事前に言われていた通りカフェは盛況している様でそれ以上声をかけられる雰囲気ではなかった。
仕方なく案内されるのを待つ。
私たちと同様に案内を待っているお客さんたちは、若い女性客が多い。みんな一松くん目当てだったりして・・・なんて一人勝手に不安を抱いて。順番がきて同い歳くらいの可愛らしい女性に客席へと案内されれば、一松くんとは仲が良いのかな・・・なんて気になって。
彼女でもないのに彼女みたいな思考回路に自分が一番驚いた。そもそも一松くんには昔、こっぴどく振られた経験があるじゃないか、と言い聞かせるように首を左右に振った。
そうして案内された場所に腰を下ろし、何気なく人だかりのできた窓際へと視線をずらしたときだった。キレイなお姉さんの膝の上で、猫耳と尻尾を生やした(着けた?)一松くんがいたのだ。
そして冒頭に戻る。
スタッフとして働いているものだとばかり思っていた故に、猫に化けて働いている姿にカラ松くんと私はとても驚いた。猫に化けて働いているなど、誰が予想できただろうか。
そんな現状を見て“一松くんのおかげで売上が上がっている”と言ったオーナーの言葉を本当の意味で漸く理解することができたのだ。
『一松くん、鼻の下伸びてる・・・。』
「あぁ。羨ましい・・・・・あ、いや!そんなことは思っていないからな。オレにはハニー、花子だけだから。」
向かいに座るカラ松くんはブツブツと何か言っていたが、私の耳にそれが届くことはなかった。