第6章 恋の歯車、回り始めました〈カラ松〉
「・・・にゃー。」
“キャー可愛い”
“撫でて欲しいの?”
“こっちにおいでー”
おれのひと鳴きで、お客さんたちは可愛い可愛いとおれを撫でまわす。“いやぁ、お姉さんたちの方が何倍も可愛いですよ”と内心思っていることはバレていないだろう。
時にはお姉さんに膝枕してもらったり、時にはその太ももに顔を埋めてみたり、時にはあーんなところやこーんなところへ偶然を装って触ってみたり・・・普段じゃ絶対にできやしないことのオンパレードだ。それに加えて、お給料もきちんと貰えている。
・・・猫カフェバンザーーーーイ!!
そして今日も偶然を装い“にゃぁー”と鳴きながら、お姉さんの膝の上から胸あたりを狙う。
「まぁ、エッチな猫ちゃんね。可愛い。」
お姉さんの胸は割と大きめで、花子の胸とは比べモノにならないくらいに弾力があった。ふとそんなことを思ったが、花子の顔を思い出して少しだけイラついた。
それには理由がある。
最近、花子もおれも仕事が忙しくて、なかなか休みが被らなかった。疲れを癒して欲しくて花子とセックスしたいなんて思うのは毎晩のことで。
でも、気付けば花子の周りにはいつも誰かがいた。一番隣にいる頻度が多いのは、カラ松で、さすが“カラ松ガールにする”とおれに宣言しただけのことはあった。
気に食わないのはそれだけじゃない。
みんなと住み始めてからおれたちは一度もセックスをしていない。したことと言えば、エレベーターでしたあのキスくらいで。正直花子が足りなくて足りなくて、どうにかなってしまいそうだった。
それなのに、だ。
花子ときたら、おれを求めることは疎か、他の兄弟と関係を持っているようなのだ。もちろんいい気はしないが、そもそも彼氏でもないおれが口出しできることでもない。分かっちゃいるが、それでもやはり自分だけの花子じゃないことがなぜか寂しかった。
そして極めつけは今朝のこと。
仕事とは違うお洒落な格好をしている花子が何やら楽しそうにしていて。どうやらカラ松と出かけるらしいと教えてくれたのはトド松だった。その見たことのない眩しい笑顔が自分に向いていないことに、心底苛立ったのだ。