第5章 シコ松のシコ〈チョロ松〉
「はい、お待たせ。花子、これが欲しいんだよなぁ?ええ?」
『・・・っ!!』
「氷水でギンギンにした、この冷た〜いタオルが欲しいんだろ?」
『ほ、欲しいっ』
「欲しい?くださいだろ?」
『く、くださいっ』
「ください?私のようなメスぶ」
「はい、ストーーーーーップ!ちょっと一松、いつまで続けるつもり?オマエのそれ看病じゃなくて、調教だから。前も言ったろ?」
「そうだよ、一松兄さん。花子ちゃんも乗らなくていいから。はい、おでこ出して。」
一松くんの看病という名の調教が終わり、おでこを出せばトド松くんが冷たいタオルを乗せてくれた。
冷たくて思わず肩をすぼめる。
「ごめん、つい。あ、これ。」
ボサボサ頭を掻きむしり反省する一松くんに手渡されたのは体温計。恐る恐る測ってみれば38度5分。
大人になってもこの熱はやはり辛く、仕事が休みの日で本当に良かったと心底思う。しかし安堵したのも束の間、今日は一松くんの面接という大事なミッションがあったのだ。
『一松くん、面接っ!』
「午後でしょ、覚えてるよ。」
「え、なに一松働くの?聞いてないんだけど、」
「言ってないからね。」
「んあぁぁぁ?オマエよ、人のことあれ言えこれ言え、終いには心が乾ききった化け物呼ばわりしておいてそれはないんじゃない?あ、オマエって言っちゃったゴメンね、つい。」
荒れるトド松くんをチョロ松くんが取り押さえ、話を元に戻す。
『午後までにはなんとか』
「は?オマエは寝てろよ。おれ一人で行けるから。」
『でも、』
「大丈夫。おれだってもう子どもじゃない。」
そこまで話して、なんだが気分が悪くなり、閉じてくる瞼に抗えず深い眠りに落ちた。