第5章 シコ松のシコ〈チョロ松〉
「チッ、十四松のとこに行ってくる。」
「おいおいおいおい、待て待て。オマエ今何しようとしてる?」
「コロスに決まってんだろ。」
「いちまぁつ、落ちつくんだ。」
花子の部屋のドアノブに手をかけると、クソ松がそれを制するようにおれと扉の間に立ちはだかる。
クソ松の話によれば、例の彼女を見送ったあと雨に打たれた十四松は無気力になりながら帰宅。玄関で花子とはち合わせして、同意の元ヤったらしい。
そこまで聞かされれば、花子の首筋のキスマークも服が少し濡れていた理由も辻褄が合う。
・・・ったく、こいつは何をしているんだ?
男なら誰でもいいのか?
なんて彼氏でもないおれに言える権利などないが、おれだけの花子じゃないことが少しばかり寂しかった。
モヤモヤとした感情と格闘してるとも知らずにカラ松が花子の頬を優しく撫でる。
「あぁハニー、可哀想に・・・とても辛そうだ。」
『はぁっ・・・・はぁっ・・・・、』
目をつぶったままの花子は苦しそうに肩で息をしていた。そんな花子にクソ松はまたバカみたいなことを言い出した。
「花子とブラザーに水道水なんかを飲ませるわけにはいかない。」
「やめとけクソ松。またオマエも風邪ひくぞ?」
「いいや、オレは行くぞ。最高級で最上級の雪解け水をプレゼントしてやるからな。」
待ってろ、ハニーだなんてイタイセリフを吐き捨ててクソ松は颯爽と部屋を飛び出した。
・・・しばらく帰って来なきゃいいのに。
そんな本音が漏れそうになりながらも、視線を花子に落とす。
辛そうにしている花子を見れば、早く良くなって欲しくて、雪解け水とまではいかなくとも、おれに何かできることはないかと探してみる。
それでも結局何も思いつかず、カラ松が撫でていたようにそっと頬を撫でてあげることしかしてあげられなかった。
「花子・・・・、」
『はぁっ・・・・はぁっ・・・・はぁっ・・・・、』
「あんまり心配かけないでよ。」
届くはずないと分かっていながら、花子に声をかけ、朝になるまではここにいようと決めた。