第2章 花の蜜に吸い寄せられるのは、蝶だけではない
パチッ
と。
浮上した意識と共に目を開けると。
一番に刺激されたのはまず、触覚だ。
「おはよう、凛ちゃん」
頭の下に差し入れられた腕の感覚と、頭を優しく撫でる、掌。
「凛ちゃんは寝顔も、かわいいよね」
「………っ」
徐々に覚醒する意識と、蘇る記憶。
あたし。
あのまま寝ちゃったんだ。
思い出した途端に顔に集まる熱。
「そんなに悦(よ)かった?朝から煽らないでよ、凛ちゃん。ガッコ、遅刻しちゃうよ?」
あお……っ!?
「___っ、ってない、から!!」
バサッと勢い良く布団を剥がして、ベッドから出ようとするあたしを翔琉の笑い声が追いかける。
「っと、危ない」
出ようとしたところでふらつくあたしを、はじめから予想したように回された翔琉の右手。
「飲みすぎちゃった」
ジロリと振り向き様に睨み上げれば。
『てへっ』とでもいいたげに、悪びれもなく笑う、たぶんあたしの恋人って定義であってるはずの、彼。
ヴァンパイア。
は。
当たり前のように唇を重ねてきた。
すぐに流れ込んできたのは、少しだけの、血液。
コクン
と喉を鳴らしたのを認識し、彼は唇を放す。
「ごはん、ちゃんと食べてね?」
「……っ、食べるわよっ、死んじゃうものっ」
一気に軽くなった体は、勢い良くベッドを飛び出し浴室へと向かうのだ。
もちろん。
彼の余裕そうに笑う笑い声も、頭いっぱいに、響かせて。