第4章 つもりに積もったチリは、華となるか、凶器となるか。
「………んん」
抱き締めながら寝ていた彼女のモゾモゾと動く気配で、意識が一気に浮上する。
右腕にかかっていた体重が、軽くなって。
乗っかっていた頭が、移動したことを知る。
「起きたの?」
「!!」
「まだ夜中だよ?寝てていいのに」
「………おなか、すいた」
腕の上から頭を枕へと移動した凛が、小さく呟いて。
かわいすぎて笑いたくなる衝動を堪え、起き上がった。
「作るよ、なんか」
昨日夕飯、食べてないし。
お腹空くのも当然だ。
生身の人間なんだから。
「………お腹すかないって、いいね」
ボソッと呟かれた言葉に、振り返る。
「なに?」
「………うん、いや、すかないわけじゃ、ないよ」
「え?………ぁ、うん、ごめん」
食べなくても、支障はないけど。
血は飲まないと、生きていけない。
凛の言う『空腹』、が、欲求を満たすことになるのなら、たぶんそれは同じなんだ。
「………翔琉」
「ん?」
「怒って、る?」
「………」
夜食に食べるならスープかな。
胃に優しいものでも、作るか。
「翔琉」
野菜を煮やすいように細かく切って、コンソメで味付けて。
「………なんか、言ってよ」
「………」
一通り鍋に入れて、蓋をしたら。
冷蔵室から冷えたミネラルウォーターを、取り出す。
そのまま凛の隣へと腰掛け、無言で手渡した。
「怒ってるよ」
「………」
「凛ちゃんはさ、なんでそんなに無防備なの?」
「ぇ」
「簡単に男と夜にふたりになるし、薄暗い路地裏なんかなんでついてったの?」
「………それは、ごめんなさい。軽率だった」
「━━━━俺が、嫌になった?」
「え」
「好きじゃない?」
「………何、言ってんの翔琉?」
「………」
昨日だって。
あんな酷くしたのに全然理由、話してくれなかった。
突然バイトなんかして。
俺に言えないこと?
言いたくないこと?
「……かけ、る」
不安に揺れる、凛の瞳。
大きく揺れるこの瞳が大好き。
ぷっくり熟れた、唇が大好き。
だけど今は。
正直見たくない。
「目、紅いまま………」