第3章 運命なんて、選んだ選択肢のひとつの結果でしかない
「うん」
まるであたしの問いを予想していたように。
顔色ひとつ変えずに翔琉は頷いた。
「ごめんね、凛」
「……」
「凛の大事な友達、血、貰っちゃって」
「記憶も消せるの?」
「俺たちが『狩り』をしても全然騒ぎにならないのは、なんでだと思う?」
「………飲んだ、あと、記憶を消すの?」
「正解」
消えちゃいそうに笑って。
翔琉はあたしから手を離した。
「なら、なんであたしの記憶消さなかったの?」
「消して欲しいの?」
「………」
うん、て。
頷けばあたしの記憶も消しちゃうの?
全部なかったことにしちゃうの?
「翔琉」
階段の踊り場。
1段だけ下がって階段に座り込む翔琉の背中に声をかけた。
「あたし、『運命』信じるよ」
「凛?」
驚いたように振り向いて。
あたしと視線を合わせる翔琉の瞳が、不安と期待で揺れる。
『こんなこと』があったあとの。
『こんなこと』をしでかした自分への、拒絶されるかもしれない不安。
『信じる』、期待。
そうだあたし。
たぶんたくさん翔琉を不安にさせた。
『運命なんて信じない』
『咬まないで』
たくさん、傷付けた。
「……凛?」
だから。
不安にならないで。
不安にさせないで。
信じさせて。
人間とか、ヴァンパイアとか。
そんなの関係ないって。
あたしを、見つけてくれたんだから。
床へと両膝をついて、後ろから翔琉を抱き締めれば。
やっぱり驚いたように。
翔琉の声が揺れた気がした。
「あたし、思い出したよ」
「ぇ」
「あたし10年前、翔琉に会ってたね」
「凛……?」
「あの時翔琉が、あたしに声をかけたのがただの偶然でも。翔琉が選んだ選択肢のひとつでも。その選択のおかげで翔琉にまた、会えた。見つけてくれた。あの出会いはやっぱり、運命なんだよ」