第3章 運命なんて、選んだ選択肢のひとつの結果でしかない
『あの時』。
まだ6歳の頃。
はじめて人間を、『欲しい』と思った。
なにかとうるさい咲の目を盗んで公園まで足を運んだ。
滑り台も。
ブランコも。
砂場も。
どれも楽しそうで。
他の子供が遊んでいる中へと飛び込んだ。
だけどすぐに。
滑り台から落ちた女の子が怪我を、して。
風に乗って運ばれてくる血の匂いに全身の血液が騒ぎだしたんだ。
ドクン━━━━、て。
喉が熱くなった、瞬間。
隣で遊んでいた子供が泣き出した。
そのあとはもう、パニックで。
親も子供もみんな自分から瞬く間に離れて行った。
何が起こったのかわからなくて。
ただただ、その場でひとり立ちすくんだ。
『翔琉っ』
咲の声が、して。
風が吹いて。
気付けば、目の前でひとり、女の子が泣いていた。
右手と右膝から、血を流して。
『なぜ泣く?』
偶然なんかじゃ、ない。
あの時声をかけたのは、偶然なんかじゃない。
『欲しい』と、思った。
血が、欲しいと。
甘い甘い、匂い。
美味そうな、匂い。
だけど。
『ふふ……』
ふわりと笑う、女の子。
怖い怖いと、泣いていたはずの女の子は、目の前でふわりと笑った。
瞬間。
何故だか音が、時が止まった気がした。
守りたいと、思った。
汚しては、いけないと。
心からそう、思ったんだ。