第2章 花の蜜に吸い寄せられるのは、蝶だけではない
「……まぁ、いいや」
ぐしゃっ、て、自分の前髪を無造作に受け止めながら。
ふー、って。
短く息を吐く翔琉。
に。
ヤバい。
一瞬ドキン、て。
心臓が跳ねた。
だってだって、なんなの、今の顔。
ものすごくかわいいんですけどっ。
妬いてる?
拗ねてる?
めちゃめちゃかわいくて。
めちゃめちゃカッコいいんですけどっ!?
「……凛ちゃん、なんかいろいろ漏れちゃってるけど」
「え?」
「真っ赤な顔して、何考えてんの?」
「……」
「凛ちゃん」
ヤバい。
なんか、これはヤバい。
「……べつ、に?」
ふい、と。
反らした視線は蜜事の合図。
蜜の味。
蜜の甘い匂い。
「…--っ」
気付いたところで走り出したそれは止まらない。
止められない。
「体まで真っ赤だよ?」
首筋に唇を寄せながらくすくすと笑う翔琉が、かぷ、っと、皮膚を食むだけで反応する体。
「そんなに期待しないでよ、頑張っちゃうじゃん」
欲望に忠実に従う体とは反対に。
理性が、それを邪魔するのだ。
「翔琉、ストップ」
だってここ、資料室。
鍵だってない。
つまり、誰が入ってきてもおかしくない状況な、わけで。
「こんなとこ誰がくんの?」
「でも……っ」
「おしゃべりも凛ちゃんとならずっとしてたいんだけどさ」
「……っ」
首筋を甘噛みしながら遊んでいた翔琉の唇が、額へと、寄せられて。
「今はこっちのがいいなぁ」
顔を包み込むように回された両手が、顔を固定する。
「ん…っ」
降ってきたのは、期待どーりに甘く優しい口付けで。
こんなの。
いくら理性を総動員させても敵いっこない。
「凛が嫌なら、しない」
「……っ」
「どーしたい?」
「……ずるい…っ」
「うん、でも、好きでしょ?」
足の間へと翔琉の右膝が入り込み、体へ直接仕掛けてくる。
「ねぇ凛、言って?」
「………ッッ」
わざとらしく膝を押し付ける翔琉の魂胆なんて見え透いてる。だけどそれでも。この人に勝てる術なんて端から教えてもらってなどないのだ。
「俺を、欲しがってよ」