第2章 花の蜜に吸い寄せられるのは、蝶だけではない
「んっ……」
触れられると痛い、はずなのに、
なんだろう。
痛い、とは違う感覚。
まるで掌まで性感帯にでもなっちゃったみたいな……。
翔琉の舌が柔らかくて。
すごく気持ちいい。
「終わったよ?痛くない?」
「……痛く、ない」
え、嘘。
あれ?
なんで?
傷が、治ってる?
「こんなこともできんの?」
「血が出る怪我なら、治せるよ。血液を変えればいいだけだから」
「?」
「言ったよね?体液の濃さが違うんだよ」
「……そっか」
なんかよくわかんないけど、ヴァンパイアって医者いらずだね。
すごい。
「ねぇ凛ちゃん、あれ、誰?何してたの?なんかされなかった?」
資料室の棚へと右手付いて、ずい、っと身を乗り出してくる翔琉の様子に。
はじめて翔琉に囲われた事実にたどり着く。
「……ゼミの、先輩?」
「なんでそこ疑問系?ってかなんで目、反らした?」
「……」
なんでだろう。
間違ってないしやましいこと全然ないのに。
これじゃ思い切り怪しんでくれ、って言ってるようなもんじゃん。
「いやぁ、なんでだろう」
「凛ちゃん」
ヤバい。
ヤバいヤバい。
翔琉さん、目、紅いままだよ。
「ねぇ凛ちゃん、甘い蜜に群がるのはね、別に蝶だけじゃないんだよ?」
「は?」
「甘い蜜を吸いたい、って思うのは、蝶以外にもいるよ?」
「待って、近い。翔琉さん、近いです。ってかものすごく意味わかんないし」
近い近い近い。
唇くっつくまで、数センチないよ?
なんなら数ミリ?
近すぎる距離に、目も口もぎゅっと閉じた。
ついでに呼吸さえも封印だ。
「……『甘い匂い、するね』」
ぇ。
これ。
聞き覚えのある言葉に。
思わず瞳を開けば。
想像よりもさらに近くに、翔琉の瞳。
「あいつ、誰?」
「……」
誰。
だれ?
………『何』?