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三十路教師と女子高生。

第3章 4月、木曜放課後、家庭訪問。


「私は立夏の母方の祖母です。
娘…立夏の母は未婚で立夏を産みました。理由は聞いておりません。本人が泣いて産むと言ったので、私も夫も理由も聞かずに産ませてやりました。そして立夏が小さな時、夫と2人で出かけた際に事故に遭って私達を置いていった。
そう、あの子には伝えてあります。」

記憶を思い起こすようなゆっくりとした口調。
それが一瞬にして引き締まる。

「これから先は他言無用です。あの子にも。」

その瞳に、緩んだ背中が伸びた。
それを見た橘の祖母は長い息を吐くと語り出した。

「あの子の母…私の娘があの子をお腹に宿したと分かった時、あの子は仕事を辞めました。仕事を辞めて数ヶ月後に怪我をして帰ってきたこともありました。その後に娘は「出産費用は心配いらない、お腹の子のこれからのお金も心配いらない。」と…」

「あの子を産んでから娘がぽつぽつと話したのは、あの子の父親は既婚者だったということ。認知をしない代わりに出産費用と毎月の養育費を振り込んでくれると約束させ、公的な書類も作ったと。」

「あの子が2歳の冬の日です。いつもは私か娘が保育園に歩きか自転車でお迎えに行っていたのですがその日は熱があると保育園から呼び出しが来たので、夫が仕事を抜けて2人を病院に送り届ける予定でした。夫が帰宅し、車にエンジンをかけたからと娘を呼びに来て、2人で家の玄関を出て行きました。」

「それが2人を見た最後です。」

「30分後か、40分後か…保育園から連絡が来て、電話が来てから20分くらいで家を出ましたよ、まだ着いてないなんておかしいですね、なんて話をしたのを覚えています。その電話の数分後です。警察の方から電話が来たのは。」

「自宅と保育園の中間くらいの場所。
曲がりきれなかった大型トラックが、信号待ちをしている夫達の車に覆いかぶさったらしいです。
あの日はその年1番の冷え込みだったようで、地面が滑りやすくなっていた…そう警察の方からお話されました。」

「夫も娘も即死だったそうです。
保育園に連絡を入れすぐに病院に向かうと、少し待たされた後に部屋に通されました。
看護師さんに綺麗にして頂いたみたいですが、やはり事故の凄まじさを物語るように、2人ともぼろぼろでした。」


「それから私は立夏と二人暮らしです。」


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