第3章 4月、木曜放課後、家庭訪問。
「さて、先生はアレルギーはないんですよね?」
唐突な話題の変化についていけない俺。
戸惑いながらはいと返事をすれば、橘の祖母はゆっくりとした動作で立ち上がり橘を呼ぶ。
「おばあちゃん、話終わった?」
「終わったよ。」
祖母と話した橘は俺を向くと、小さく笑う。
「先生、サバの味噌煮好き?」
「嫌いでは、ない。」
「じゃあ食べてって?先生の分もあるから。」
は?
どういうことだ。
問うように橘の顔を見れば、橘が俺を座布団に座らせる。
「聞いたじゃないですか、独身ですか、アレルギーないですかって。」
あれは遠回しに飯の準備をするってことだったのか。
いや、分かんねえだろう。
なんて自問自答をしていれば、目の前に出てくるサバの味噌煮。
小鉢にはほうれん草ともやしのお浸し、味噌汁は茗荷と小葱が浮かんでいる。
「ご飯どのくらい食べれますか?」
は、と横を見ればお櫃からご飯を盛る橘。
普通盛りを選択すれば茶碗にちょうど良い量の白米が盛られる。
それを受け取れば、橘はお櫃に蓋をし、自分の食事に向き合いいただきますと手を合わせた。
ここまで出されたものを食わないわけにはいかない。
俺も手を合わせ先ずは味噌汁に手を付けた。