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三十路教師と女子高生。

第3章 4月、木曜放課後、家庭訪問。



出して頂いていたお茶を口に含む。
思った以上に口が渇いていたことに気づき、2度3度と口に含み飲みこむと、俺は口を開いた。

「なぜ、それを俺に…?」

そう問えば、目の前のご老人は先程までのぴりりとした視線を和らげ、1枚の書類を取り出した。



肺がんの末期



そう書かれていて思わず顔を上げれば、目の前には笑顔。

「はじめてでした。家の事情を聞きに4月に来てくださる先生は。」

今までは学年で一斉に配られる家庭事情を聞くプリントかしばらく後の家庭訪問か面談が主で、と橘の祖母は続ける。

「それに夫とは駆け落ちをし、お互いの実家とは縁が切れております。私が居なくなればあの子は路頭に迷うでしょう。」

ふわりと微笑んだその人は、座っていた座布団から横に移動しすうと頭を下げ畳に頭をつける。

「っ!頭をあげてください。」
「お願いします。あの子を、立夏を守ってあげてください。せめて、高校だけは出してあげたいんです。」
「やめてください!」

言葉で制しても無理だとわかっているので近くに寄れば、ぐいと掴まれるスーツの袖。
頭を上げ下から見上げるその瞳には強い力が宿っていた。


「お願い、します。」


3年前、俺はアイツ…椎名からこの目で見つめられ、折れた。

正直、俺はこの目に弱い。


「わかり…ました。
俺に、何ができるかは、分かりませんが…」

そう答えれば、俺のスーツを握っていた手が解ける。
よろしくお願いします。
震える、小さな声がぽそりと俺の耳に届いた。

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