第2章 4月。担任とアイツと初対面と。
授業が終わるチャイムが鳴り、赤い顔の椎名が何かを思い出したように俺を見た。
「あ、マサちゃん。2年生の教室行っても大丈夫?」
2年ってことは灰羽だな。
アイツ新学期早々何やらかしてんだ…
「灰羽、早速何か忘れ物か?」
そう問えば、手に持ったいかにも男子高校生が持っていそうな黒の保冷カバンを俺の目の前に掲げる椎名。
「リエーフ、お弁当忘れて学校行っちゃったから学校来たついでに渡しに行こうかなって。」
おい、行こうかな?じゃねえよ。
アイツが絡むと大変なことになるんだよ。
仕方ねえ…
「じゃあ俺、ついていくわ。面倒な事になりそうだしな。」
「やった。リエーフのクラス知らないんだよね。」
俺が教室を教えると話せば嬉しそうに俺の後ろをついて職員室から出る椎名。
わざと目の前で立ち止まってやれば、椎名は俺の背中にぶつかって女らしくねえ声を上げる。
「マサちゃんごめ…」
転びそうになりながら謝る椎名。
体を支えるフリをして俺の腕の中に閉じ込めた椎名の謝罪の言葉にかぶるように、俺は言葉を耳に囁いた。
「灰羽の教室に連れて行くのには1つ条件がある。」
腰を抱く腕を少し強めてやれば、椎名の顔はさらに赤みを帯びる。
「名前、流石にちゃん付けじゃ色気もクソもねえからな。」
「異論は?」
「認めねえ。」
「言わなきゃ?」
「離さねえ。」
ガキくせえとは思ってる。
でも、折角腕に閉じ込めた好きな女をさっさと解放してやるほど俺はまだ人間ができてねえ。
ほらさっさと呼べよ、美優。
「正嗣…さん」
小さな声。
押し出すように呟かれた名前に機嫌が良い。
頭を撫でながら腰に回した手を解放すれば椎名はふいと目をそらす。
「うん。やっぱりいいな、美優。」
わざと名前で呼び、ついてくるようにと促すと、椎名は頬の火照りを沈める為か片手で顔を仰いでいる。
本当さぁ、無防備すぎて食ってやりたい。