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三十路教師と女子高生。

第2章 4月。担任とアイツと初対面と。



2コール、3コール。
そこまで待たずに相手は電話に出る。

「おう、椎名。」
「っ!マサちゃん⁈ちょっと待って⁈」

電話の向こうから聞こえる椎名やテレビとは違う声。
その声に反発するような椎名の声が聞こえたあと、再び椎名の声が聞こえた。

「ごめんね、マサちゃん。で、どうしたの?」
「どうしたの?じゃねえよ。お前さ、灰羽、自宅に住まわせてるって?」

一瞬の沈黙の後、椎名は小さな声でうんと答える。

「お前な…卒業してからも面倒ごと持ち込むんじゃねえよ。」
「…ごめんなさい。」
「とりあえず、念のため事実確認がしたいんだけど…明日空いてるか?」
「明日は大丈夫。入学式来週だから。」
「じゃあ明日10時頃で良いか?」
「はーい。明日はよろしくお願いします。」

そう言って電話を切ろうとする椎名。
まだ繋がっている電話に向けて、俺は少しだけ低い声でつぶやく。

「美優?」

息を呑む声。
戸惑ったような、小さな声で何?と問う声。
本当、からかい甲斐のある奴。

「近くに灰羽は居ねぇんだよな?」
「っいないよ?」
「もう4月だから生徒じゃねえよな?美優。」

くすり、と笑えば、ひゃう!と叫び声をあげる椎名が面白くて、可愛くて、さらに話を続ける。

「それに俺はもうお前の担任でもなくなったわけだ。
だから、"マサちゃん"はねえよなぁ?」
「……じゃあ、名前で呼べば良いの?」

きっと茹で蛸みてぇに顔を赤くして、困ったような顔をしているんだろうな。

頭を撫でて
赤く染まった頬を撫で
困ったように尖らす唇にキスしたい

でも、それは叶わない。

「呼んでくれねえの?美優。」

少し、甘えたような物言いで問えば、うーと唸る声。
駄目押しでもう一度名前を呼べば、小さな返答。

「まさ…つぐ、さん…」
「ん?なんだ?」
「ずるい…余裕そうで…」
「大人だからな。」

椎名の10年先を生きているんだ。
その間に大人のイロハを覚えてきた。

「じゃあ、明日な?美優。」
「…明日、よろしくお願いします。正嗣さん。」
「はいよ。」

電話の終了音を聞くと、俺も電話を切った。



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