第1章 ヒメゴト
「なに……?」
目の前には私に覆い被さる形で兄がニヤニヤといやらしい笑顔を浮かべている。
「いーや?お兄ちゃんは今から朝練に行くから、行く前に行ってらっしゃいのチューでももらおうかなって思ってよー」
「キモいんだけど」
暑いしどいてよ!と肩を渾身の力で押すがビクともしない。
「なぁ」
「な、なに?」
鉄朗は自分の肩を押す私の腕を取り柔らかくベッドに押し付けた。
顔が近づいてくる。
「意識してんのは、俺だけか……?」
そんな言葉を私に投げかけると鉄朗は、何事もなかったかのように身体を起こすと 私に背中を向けた。
「ぉんじゃー、学校行ってくるわー」
「……あ、ぅ…ん…いって、らっしゃい…」
一人になったことで身体に入っていた力が一気に抜けた。
抜けた力が睡魔を呼び私はその睡魔に身をゆだねた。
意識してんのは、俺だけか……?
そんなわけ、ないでしょーがよ。