第1章 ●瞳に映らなくとも*伊月俊
咲良の頭を優しく撫でながら、もう片方の腕は腰に回す。
確かに感じる咲良の感触に、喜びの溜息が漏れた。
咲良を抱き締める力を強める。
今までそんな雰囲気になったことがないから、本当に咲良が俺を好きでいてくれてるなんて現実味がないと思った。
「ごめん、俺、嬉し過ぎて、どうしたらいいのか…。」
「私も。今こうやって伊月君に抱き締めてもらえてるのが夢みたい。」
そう言って、ふふっと笑い声を漏らす。
そんな咲良が可愛過ぎて、もっと触れたい、っていう気持ちが止められない。
一旦咲良から身体を離して、咲良の顔に両手で触れながら、意を決して言う。
「咲良、キス、してもいい…?」
その言葉に咲良の顔が赤く染まった。
きっと、俺も同じような顔してる。
もしかしたら、咲良よりも赤くなってたかもしれない。
「うん、…伊月君となら。」
その言葉をもらえたことに安心した。
綺麗にグロスの引かれている唇を親指で、すっ…、と撫でてから軽く唇同士を重ねる。