第1章 ●瞳に映らなくとも*伊月俊
二人ともオムライスを食べ終え、咲良が食後に紅茶を淹れてくれる。
その後は二人で色んな話をした。
レポートが全然進まないだとか、名物教授のカツラが明らかに変わったとか、実は日向は眼鏡を取ると目が覚めるほどのイケメンだとか。
その度に咲良は共感してくれたり、驚いたり、色んな表情を見せてくれた。
「ねぇ、伊月君。一つ不躾なお願いがあるんだけど…。」
「不躾って…、どうした?」
「引かないでね…?…顔を触らせて欲しいの。」
「顔?」
どうやら咲良は人の顔を触ることで、その人がどんな顔付きなのかを知るらしい。
といっても、他人に顔を触らせて、なんてお願いできる筈もなく、顔を知っている人は家族ぐらいだと言う。
…それって、自惚れてもいいのか?
「ごめん、変なこと言っちゃって…。やっぱり、今の忘れて?」
俺が聞き返したりするから不安になったらしく、少し悲しそうにそう言った。