第8章 「フキノトウ/フキ そしてツクシ」
「後は味噌汁の薬味に使うとして、
......だが七つは残るな」
リヴァイは悩みながらフキを
煮ていたコンロを止めた。
考え込みながらも火にかけた
料理のことは忘れないらしい。
『まだ十五分くらいだよ?』
「煮物は冷めるときに
味が滲みるからな。
風味を活かしたい素材のときは、
これくらいで充分だ。」
『へえー。何か煮物って
弱火でじっくりコトコトって
イメージあったなぁ』
「素材によるがな。火が通りやすい
野菜や魚なんかは、煮すぎると
崩れたり風味が飛んだりするんだぞ。」
そしてまたリヴァイは
フキノトウと向き合った。
「見様見真似で
ばっけ味噌にでもしてみるか?」
さやかには謎の単語を呟き、
リヴァイはフキの茹でこぼしに使った
中華鍋にもう一度水を貼った。
『リ......リヴァイさん、何かもう
原型をとどめてないんですけど!』
リヴァイは茹でこぼした
フキノトウを水にさらし、
さらに力任せに絞って水気を切った。
そうしてソフトボール大になった
緑色の固まりをみじん切りにし、
そのみじん切りをさらにごま油で炒め、
......愛らしいフキノトウの面影は
もはやカケラも残っていない。
そこへ持ってきてリヴァイが
投入したのは味噌である。
しかもフキノトウと同量、
つまりソフトボール大の。
更に砂糖とみりんと酒、
一味唐辛子が投入され......
『もう緑ですらないんですけど!』
中華鍋の中にはぐつぐつ沸騰する
焦げ茶色の液体があるばかりである。
それが煮詰まり粘度が高まったころ、
ようやくリヴァイは火を止めた。
『何?!これ何?!
私が摘んできたあのかわいい
フキノトウはどうなったの?!』
「分かりきったことをピーピー喚くな」
リヴァイが炒めるのに
使っていた木べらを吹いて冷まし、
さやかの口元に突き出した。
「おい、舐めてみろ」
恐る恐る......舐めてみる。
下に広がった味は、
ほろ苦い風味を含んだ甘味噌だった。