第17章 「増えた鍵」
それからいつものように
風呂を交替で使って、
少しくつろいでから
リヴァイの出勤時間である。
出がけを玄関まで見送るのは
もう習慣になっているので、
身支度を済ませた
リヴァイの後ろをついていく。
と、ドアのキーラックに
手を伸ばしかけた
リヴァイが手を止めた。
「鍵、増えたか?」
よし、計算どおり。
気づいてくれた
タイミングで何気なく切り出す
『あたしも自転車買っちゃった』
そこまではさり気なく
言えたのに、その後がいけない。
『だから、あの......い、
今までより遠くにも行ける、よ?』
つっかえつっかえになった
申告に臍(ほぞ)を噬(か)む。
あー、何でここで
さらっと言えないかな、あたし!
リヴァイの振り返った
気配を上目遣いで窺うと、
リヴァイは微笑ましげに
さやかを見つめていた。
「週末晴れたらな」
そしてさやかの頭を二つ叩き、
自分の自転車の鍵と
部屋の合い鍵を取って出ていった。
さやかが鍵を閉め、
チェーンをかけてから
足音が遠ざかるのも
いつもと同じだった。