第7章 「春が遅い年は悪くない」
『すごーい......』
ジャージに身を固めた
年配男性のジョガーとすれ違い、
さやかは思わず呟いた。
『今のおじさん、
絶対私より体力ある』
「......今からそんなで
年取ったらどうする」
『うーん、今初めて
ちょっと危機感覚えた』
「たまには少し歩け、せっかく
こんないい場所あるんだからな」
『じゃあリヴァイが
誘ってくれたら......』
「確かにさやかは自発的に
動くタイプじゃねえしな」
河原自体はまだまだ殺風景な
冬の名残を残していたが、
それでも何だかんだと見所はあった。
『あっ、何か珍しい鳥がいる!』
白と黒のすっきりした
カラーリングが印象的な
細身の鳥が、二人の行く手を
横切るようにサッと走った。
それは見事な足回りで、
日頃スズメやカラスくらいしか
見たことのないさやかは鳥に
これほどの走者がいるとは
思いも寄らなかった。
「ああ、あれセキレイ。
街中でも結構いるぞ」
『すごいね、両足で人間みたいに
走ってたよ!あんな鳥みたの初めて!』
「両足交互に使えるってことなら
身近なとこでハトもいるだろ。」
『ハトがあんな身軽に
走り回るとこなんか
見たことないもん』
「まあ、アイツら怠惰だからな。
必要最低限しか移動しねえぞ」
『怠惰が過ぎてたまに
命落としかけてるよね。
私歩行者線のギリギリ内側で
轢かれてるとこ見たことある』
車を避ける見切りがギリギリで
甘かったのだろう。リヴァイが
呆れたように顔をしかめた。
「もはや鳥とは思えない死に様だな。
車が来ても二、三歩しか
避けない鳥類ってアイツらだけだ。」
申し訳ないが〝かわいそう〟とか
〝気の毒に〟よりも〝飛べよ!〟と
突っ込みたくなる最期だ。