第2章 「おい お前、俺を拾え」
男が食卓に軽く手を合わせ、
さやかも釣られて手を合わせた。
食べる前に手を
合わせるようなごはん、
ずいぶん食べてなかったな......
きちんと誰かの
手間がかかったごはん。
一人暮らしの
コンビニ飯ではさすがに
いただきますの気分にならない。
おかずはタマネギのオムレツ、
味噌汁もタマネギに卵と、
男がかろうじて発掘した食材のみで
構成されたメニューである。
だが、
『おいしい......』
一口すすった味噌汁は、
じんわりと体に
滲み入るようだった。
インスタントは
どれだけ頑張っても
インスタントの味なんだと
分かるような。
オムレツも具のタマネギを
塩胡椒で炒めただけのシンプルさ。
そのシンプルさが舌に滲みる。
「味は薄くないか?」
『ううん、すっごくおいしい』
涙が出るほど。
......と、本当に涙が出てきた。
男が箸を置いた。
「おい、何故泣く」
『や、何か......
お母さんに作ってもらった
朝ごはんみたいで』
「......そんなことで泣いてどうする」
『何か......
誰かが作ってくれたごはんって
美味しかったんだなぁって』
炊飯器で炊いただけのお米を
卵と食べるだけで、あるいは
一緒に味噌汁をすするだけで、
こんなにおいしいなんて。
『ありがと』
「行き倒れたとこを拾ってもらって
台所も勝手に使ってすまねえな」
そしてしみじみと朝食を噛みしめた。