第2章 「おい お前、俺を拾え」
「家主に忘れ去られてる
気の毒なヤツが一玉。
芽が出てたが使える部分があった。
奥に佃煮もあったが
糸引いてたから処分した。」
『それはどうもお手数かけまして......』
微妙に引け目を感じながら
ベッドから下りると、居間にしている
隣の部屋に寝袋が敷いてあった。
『何だ、行き倒れとか言って
寝袋持ってるんじゃない』
「ああ、だが寝袋も出せないぐらいだ。
カップ麺とはいえ、
メシ食わせてもらったからな。
お前をベッドに
運ぶくらい体力も回復した。」
きちんとベッドの中で目覚めたのは
躾のなっているお犬さまのお陰らしい。
『重ね重ねどうも......』
引け目はますます増えた。
洗面所を出ると、
居間のローテーブルの上に
ささやかな食卓が出来上がっていた。
「鍋とか食器も借りたぞ」
『あ、もうお好きになさってください』
言いつつ男の目の前に座る。
台所に一番近い席には
男が座っており、
......ここは一体誰の家だ、と
我がことながら少々情けない。
「箸と茶碗はどれだ」
どれがお前ので、俺はどれつかえばいい?
二重に折り畳まれた質問に
さやかはこくりと頷いた。
どれだと言いながらも
手に持っているさやかの箸と
茶碗は間違っていないし、
男の前にあるのは柄が
気に入って買っただけの予備だ。
『何で分かったの?
私のお箸とか茶碗とか』
「一番出し入れがしやすいとこに
あったからだ。俺が使っていい分は
微妙だなと思ったがな。」
まー細やかな男だこと。
『そのお箸と茶碗、使っていいよ。
お汁のお椀は区別してないし』
「ああ、冷めないうちにさっさと食え」