第16章 「春の野花 - タンポポ、イヌガラシ、スカシタゴボウ」
花かんむりは洗面器にでも
生けるのかと思っていたら、
リヴァイは食器棚の下の
扉を開けてガサゴソやりはじめた。
「ほう......悪くない。」
リヴァイが出したのは、
白い陶器の大皿である。
引き出物などでもらったはいいが、
一人暮らしではなかなか使う機会の
ないものをその棚に入れてあり、
その皿もリヴァイが出して
初めて存在を思い出した。
会社の先輩の
結婚式でもらった引き出物である。
藍色の模様を少し散らした
品のいいデザインだ。
ホームパーティーなどで
料理を盛ったら映えそうだなと
見たとき思ったことを覚えている。
もっともホームパーティーで
手料理を振る舞えるほどの腕前が
さやかにはないわけだが。
リヴァイはその皿に
浅く水を張って、くたびれた
花かんむりの形を丸く整えて生けた
......というより単純に水に入れた。
『へえー!』
皿がシンプルなだけに
花の輪が白地の中に映えている。
「汚えものを
入れるわけじゃねえしな。
花かんむりならこれで
充分花瓶代わりになる」
とはいえ、
皿を花の器にしてしまう発想と
選んだ皿のセンスが尋常ではない。
手慰みで作った花かんむりが、
ちょっとした
フラワーアレンジメントに
化けてしまった。しかも、
使った花は河原で摘んだ野花ばかりだ。