第15章 「術中にはまる」
「その茶色いのは?」
『あ、これはきゃらぶきで......
フキの佃煮なんだけど』
「一口もーらいっ」
『ああっ!』
相手はひょいっと自分の指を
伸ばしてきゃらぶきをつまみ、
自分の口に放り込んだ。
「あ、旨い。ちょっと
酒のツマミによさそう」
旨いに決まってんでしょ?!
リヴァイが作ったんだから!
リヴァイがあたしのために
作ってくれたお弁当だったのに、
何アンタが横からつまんでるのよ!
「河野さん、料理巧いんだなー」
『別にっ......それは
お惣菜で買ったやつだから』
不本意な嘘が
小さく積み重なっていく。
「じゃあ河野さんが
作ったやつどれ?少しちょーだい」
彼は人懐こさが売りの営業担当で、
女子からの印象も悪くない。
だが、さやかの評価は
格段に下がった。
『他のも冷凍食品とかですからっ』
誤魔化しながら弁当箱を
相手から守るように微妙に隠す。
これ以上は指など
突っ込まれないように急いで
残りのおかずをかき込む。
最後に残ったのはきゃらぶきだ。
しばらく悩んだ。
こいつ食べる前に手ぇ洗ったのかな。
でも指でつまみ食いされた
おかず食べられるほど
気を許してるとは思われたくないし。
結局さやかは相手に
つままれた分以外はほとんど
手付かずだったきゃらぶきを残して、
弁当箱の蓋を閉めた。
『ちょっと用事あるから出ます、あたし』
精一杯の怒りを押し隠しながら、
さやかはオフィスを抜け出した。