第15章 「術中にはまる」
「河野さん、
最近お弁当なんだね」
会社の昼休み、
そう声をかけてきたのは
同じ課の同僚に当たる男性社員である。
相手は近所のコンビニで
買ってきた弁当だった。
『あ、はい、』
〝最近ちょっと金欠で。〟
小さな言い訳は
言い切ることができなかった。
相手がさやかの言葉を待たずに
話を続けたからだ。
「自分で作ってるの?」
『ええ、まあ......一人暮らしだし』
小さな嘘をつく心苦しさが
歯切れの悪い受け答えになった。
「すごいなー。ちょっと見せてよ」
『や、あの、手抜きだから
あんまり見ないでください』
〝手抜きだから〟なんて。
リヴァイが作ってくれたお弁当なのに。
口走ってから罪悪感が疼く。
「そんなことないって、
簡単でも自分で弁当作ってくる
女の子ってポイント高いよ」
その日は辛うじてさやかが
作ったものも混じっていた。
フキの混ぜごはんである。
「そのおにぎり、
炊き込みごはんかなんか?
ただの白ごはんじゃないよな」
『あ、これはフキの混ぜごはんで』
「へえー、すごいな。
そんなの作れちゃうんだ」
『あ、これは簡単なんです。
フキの小口切りにお塩振って
ごはんと混ぜるだけだから』
「でも一手間かかってんだ、マメだね」
ううっ、マメと言うほど
手はかかっていません。
しかも自分ではこれほど
綺麗な俵に握れません。
そのうえ一手間かかってるように見える
気の利いたこの混ぜごはんを
教えてくれたのは同居人の男性です。