第2章 「おい お前、俺を拾え」
さやかが風呂を上がると、
大きな犬はスープまで飲み干していた。
よっぽど飢えていたらしい。
『お風呂、お湯張っておいたけど......』
「ああ」
『寝巻きはあるの?』
「下着くらいならある」
『そっか、じゃあ......』
ちょうど半年前に
彼氏と別れたところだった。
さやかは押入れから
ゴミ袋に入ったまま死蔵されていた
男物の服を引っ張り出した。
古着は資源ゴミ、
と部屋に残った彼氏の私服を分類したが
当の資源ゴミの日をうっかり逃してばかりで
(何しろ月に二回しか巡ってこないのだ)
処分しそびれていたものだ。
『古着でよかったらこれ使って。
スウェットとか色々入ってるし
フリーサイズだから大丈夫』
「おい、お前これ......」
さやかは全く気にしなかったが、
躾のいい犬はためらった。
「俺が使ったらマズイんじゃねえのか?」
そこで残っていた酔いがまた弾けた。
『大丈夫大丈夫!もう半年も前に
キレーさっぱり別れた男の服なの。
洗濯は一応ちゃんとしてあるよ。
ただね、邪魔だから押入れに
突っ込んどくじゃない?
そしたら資源ゴミの日に
うっかり出すの忘れるのよね。
そんなこんなでもう半年。
思い入れもなーんもない単なる物品、
気にする必要ないのよワンちゃん。』
「ほう、よく喋るな」
それだけ言うと
ためらわなくても良いことを知り、
ゴミ袋を開け、仮の寝巻きとして
スウェットを取り出した男は、
自分のリュックからも下着やら
洗面道具やらを出して立ち上がった。
『シャンプーとか
石鹸も適当にどーぞ、タオルとかもね。
でも洗濯機は使いたかったら明日にして?
もう遅いから』
「ああ、悪いな」
そして、今にして思えば......
彼が風呂から上がってくる前に
ベッドに倒れ込み......そのまま寝た。