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月下に閃く漆黒の刃

第8章 袋小路


「…すみません。その理由は…今は、言えません」
「あ"ァ?」
いま私の脳内にある千夜さんの記憶。それは私のものではなく、なんなら私はほぼ完全なる部外者に等しい。
(今はまだ言えない。先に師匠に打ち明けてからでないと…)
この千夜さんの記憶はきっと師匠にとっても大切なものに違いない。私だってそれを易々と口にしてしまうほど馬鹿な人間ではない。
「今は、なァ…」
「はい。ごめんなさい」
しばらくの沈黙の後、不死川さんは大きなため息を吐いて私から離れた。
「まぁいい。そんだけ動けるんなら素振りに予定変更でもするかぁ?」
「い、いえ…」
それからは大人しくしている事にし、師匠から指示されていた全集中・常中を使えるようになるために瞑想を中心に体を休めた。




翌朝、筋肉痛がだいぶ落ち着いたこともあり神影は木刀で素振りをしていた。
昨日何故風の呼吸ができなかったのか?不死川さんは動きは合っていたと言っていた。ならば何が足りなかったのか。何が違っていたのか。
考えあぐね、終ぞ答えは出せずじまいだった。
「乱れてんぞォ」
「ひゃい!?」
「余計な事考えてねぇで集中しろォ」
「わ、わかってますよ!」
病み上がりといえど容赦のない風柱。ちょっとは優しいところもあるんだなんて思ってしまった自分が恨めしい。
(風の呼吸も使えるようにならなきゃいけないんだ。どうにかして習得しなきゃ…でもどうしたら…?)
まさに堂々巡りだった。打開策も見つからず、かと言ってこの容赦のない風柱が助言をくれるとも限らない…というよりも恐らく、それくらい自分で考えろとか言ってきそうだ。うん、有り得る。
「…天斬。お前少し走ってこい」
「え"」
「え"、じゃねぇ。ろくに集中できてねぇ状態でやってたって時間の無駄だァ。さっさと走ってこい」
(さすがは柱。見抜かれてたか)
はぁいと間の抜けた返事をして木刀を腰に差してノロノロと走り込みを始めた。
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