第8章 袋小路
『いい?宇練。風の呼吸を使うと体が軽く感じるのよ。それこそ風に乗ってるようにね』
『はぁ…?』
『こう、ブワーッ!てなったりグアーッ!てなったりしてね、自分が風みたいになるの』
『いや、よく分からないんですケド…』
『えー!なんで!?』
『もっと具体的に―…』
まただ。また千夜さんの記憶だ。
これは…師範に風の呼吸を教えてる…のかな?
(それにしても要領を得ないな…。千夜さんて実は説明下手だったのね)
美人でなんでもそつなくこなしていそうに見えたが、説明するのは苦手なのだろう。師範も苦笑しながら必死に解読しようとしてる。
(自分が風になる、か)
ところどころ理解し難い表現があるものの、彼女なりにがんばって説明している内容を聞くに要点はおさえてある印象を受ける。
『風の呼吸の型は荒々しい風を思わせるものが多いの。勿論似て非なるものだけど、風は水のように時として大地をも抉る強さがある』
『大地をも抉る強さ…ですか』
『そう。それを強く想像して刀を振ってみなさい』
――あなたならできるはずよ。
(え…?)
最後の言葉。それは師範に向けての言葉の筈なのに、私に向けて言っているような感覚に陥った。
そして意識が浮上する気配に身を任せ、私は目を覚ました。
「ゆ、め…?」
縁側に座り、心地いい日差しと柔らかな風にいつの間にかうたた寝していたようだ。
(私…、もしかして感覚がだんだんと千夜さんの記憶と同調してきてるのかな)
自分の手を見てもいつもと変わらない見慣れた手。しかし、呼吸の習得をする度に千夜さんの記憶に引っ張られて体が動きを思い起こし習得している。
(このままじゃダメだ。確かに呼吸を早く習得できるのはありがたいけど、千夜さんに引っ張られてるだけじゃダメだ…)
何か、自分だけのモノを考えないと…。