第8章 袋小路
もちろん私が経験したことではなかったし、美しい黒髪の女性。見覚えのある面をした彼女の名は確か千夜さんと呼ばれていた。
(千夜さんと共に居た彼…、あの人は師範だ)
宇練だなんて名前、そう多くもないだろう。となると、彼は私の師範である闇裂宇練…その人だ。
そうなれば導き出される答えはひとつ。
何故か私の脳は千夜さんの記憶を受け継いでいる。
きっと、師範の所へ来る前――私を襲ってきた鬼を、息絶えた鬼殺隊員の刀を以て倒したあの時。当時は夢中でわからなかったが、私は恐らく影の呼吸を使ってた。
急な極限の集中状態に体はついていけず、そのまま意識を手放してしまったんだ。
「私には影の呼吸を受け継ぐ素質がある。きっとそれは千夜さんの記憶が大きく影響してはいるんだろうけど、それでも…」
それでも、私はあの人の技を継ぐに値する人材ではあるのだろう。今現在、こうして生きていられることがその証明になる。
次に師範の元へ帰った時に問い詰めよう。そう心に誓った。
まぁ、その前にまずは呼吸法の習得が最優先だが。
「と言ってもなぁ…そう簡単にやれたら苦労しないんだよなぁ…」
1度技を見させてもらうとか出来ないだろうか。特に壱ノ型だけでも。そしたらきっと印象も強くしやすいはず。
ぼーっと庭を見つめていると、ふわりと優しい風が吹き抜ける。暖かな日差しと相まって少しヒヤリとした風が心地いい。
そして私は自然と下がってくる目蓋をそのまま閉じた。